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金属材料研究所研究部門の研究

補足事項

PuRhGa5とは

  PuRhGa5は、図1に示すように正方晶 (格子定数 a = 4.301 A、c = 6.857 A)であり、PuGa3とRhGa2の層が [001] 方向に積層した結晶構造である。Gaは、Puに囲まれたGa(1)及びPuとRhに囲まれたGa(2)の2種類の位置を占める。これは、超伝導体として知られるCeCoIn5と同じ結晶構造である。
PuRhGa5の単結晶を、ガリウムフラックス法により育成した。原料であるプルトニウムを図2(a)に示すが、きわめて活性な金属であり、空気中の酸素と反応する。酸化を防ぐため、全ての作業はアルゴン雰囲気中で行われた。プルトニウム、ロジウム及びガリウムを1:1:20の比でアルミナるつぼに入れ、電気炉で1100℃まで加熱する。これを12時間かけて冷却することにより、液体ガリウムの中にPuRhGa5単結晶を成長させた。図2(b)に示すよう な大きさ2.5 x 1.5 x 0.9 mm3ぐらいの単結晶が多数育成された。平たい面が(001)面である。我が国でプルトニウム化合物の単結晶が育成されたのはこれが初めてである。
PuRhGa5の超伝導は、2003年にドイツの超ウラン元素研究所のグループにより発見された。多結晶試料について測定が行われ、超伝導転移温度及び上部臨界磁場が報告された。しかし、超伝導の対形成機構の解明には、超伝導パラメータの結晶方位依存性を決定する必要があり、単結晶育成が待たれていた。こ の単結晶試料を、今回、構成元素であるガリウムフラックス法で育成した。得られた単結晶試料は、Puのアルファ崩壊に伴う発熱を防ぐために銅棒に接着して、図2(c)に示すようにカプトンチューブに挿入し、これを測定試料とした。

PuRhGa5の超伝導の基本的な性質

  PuRhGa5は磁性体であり、図3に示すように磁化率χは温度の降下に伴ってキュリーワイス則で増大し、約9Kで超伝導転移に伴って急激に減少し、負値に変化する。超伝導転移温度 Tc = 8.6 Kであった。磁場を[001]と[100]に印加したとき、ほとんど同じであり、異方性がほとんどないこと、また磁気秩序のないキュリー常磁性体であることを確認した。
ところが、様々な強さの外部磁場下での超伝導の性質を調べたところ、超伝導状態が外部磁場で破れる上部臨界磁場Hc2は、磁場方向によって大きく異なることを観測した。図4はHc2の温度依存性であり、0KでのHc2の値はH // [100] で27 T、[001]で15 Tと推定され、異方性が大きく、かつ値自身も極めて大きいことが分かった。
磁化率に異方性がないことから、この異方性は伝導電子の電子状態の異方性の反映であると結論した。エネルギーバンド理論から、類似の物質のPuCoGa5 のフェルミ面が、凸凹のあるシリンダー状をしていることから、PuRhGa5のHc2の異方性はこのようなシリンダーフェルミ面に由来すると思われる。

超伝導ギャップの異方性

  超伝導は、伝導電子が引力を感じて結合することによって生じる。このことは、伝導電子にとって、超伝導が最も安定な状態であることを意味する。超伝導を通常の状態(常伝導)に戻すためにはエネルギーが必要であり、これを超伝導ギャップと呼ぶ。従来から知られている超伝導では、引力の源は結晶格子であり、超伝導ギャップは大きさが一定で、結晶の方位にはよらない。一方、今回の発見の特徴は、この超伝導ギャップが一定ではなく、部分的にゼロになっている、ということを見いだした点である。このことは、電子間の引力の起源が結晶格子ではなく、磁気によるものであることを意味している。
超伝導ギャップを調べるための実験手段として、核磁気共鳴は非常に有効な手段である。
構成元素のGaの核スピン(I = 3/2)は、核四極子相互作用により±3/2と±1/2の2つの準位に分裂する。この2つの準位間の共鳴は、1本の共鳴線(Nuclear Quadrupole Resonance、略してNQR)となる。図5は、PuRhGa5のGa (2) サイトの69Gaのスピンエコー法によるNQR共鳴である。原子核がNQR共鳴により電磁波を吸収してから、そのエネルギーを放出するまでの時間T1を測定すると、その物質の電子状態が明らかになる。
図6は、T1の逆数の温度依存性であり、約30 K以下で温度Tに比例して、高温とは異なったコリンハ則の振舞いが見いだされた。更に、超伝導転移温度 Tc = 8.5 K 以下で、T1-1は急激に減少した。
その特徴は2つある。
(1) 超伝導転移温度 Tc 付近に従来の超伝導に特徴的なピークの出現がないこと。
これは、超伝導のギャップが一様に形成されていないことを意味する。
(2) T1-1が、Tc 以下で指数関数ではなく T3 則に従って減少する。
これは、ギャップが線状につぶれていることを意味する。ただし、3 K以下 T3 則からからずれだしているが、Puのα崩壊に伴う点欠陥によって、恐らく一部の超伝導対が破れていることを意味する。
本研究から、PuRhGa5のフェルミ面はシリンダー状と予想され、超伝導は図7(b)示すように線状に超伝導ギャップがつぶれている。したがって、図7(a)に示すような従来の一様なギャップとは異なっている。

PuRhGa5の超伝導メカニズム

  通常の超伝導は、マイナスの電荷を持つ2個の伝導電子が、プラスの電荷を持つ結晶格子によって結合し、その結果、伝導電子のエネルギーにギャップが生じることによって実現する。
一方、 PuRhGa5はPuの5f電子が関与した常磁性体であり、PuRhGa5の超伝導の発生機構には磁気が関与していることを示している。磁気関与型超伝導は、異方的なギャップ形成など通常とは異なる振舞を示す。
これまでのウラン化合物の超伝導転移温度は0.5?2 Kという低温であるが、PuRhGa5は8.6 Kと約1桁大きいことも注目される。フェルミ面が3次元の球状よりも準2次元系のシリンダー状の形状の方が転移温度が高くなることが理論的に指摘されているが、このことと今回の一連の実験結果は合致する。PuRhGa5の上部臨界磁場が15?27 Tと大きいことも、伝導電子が5f 電子を含んでいることの現れであろう。
プルトニウム化合物という超ウラン化合物で、新しいタイプの超伝導メカニズムの解明に成功したことは、超伝導という現象が金属の性質として普遍的な現象の一つであること、超伝導発生メカニズムが非常に多様であることを意味しており、その意義は大きい。ネプツニウム、アメリシウム等の超ウラン化合物でも今後 超伝導が見いだされる可能性は大きい。


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