研究ハイライト

金属材料研究所研究部門の研究

放射線金属化学研究部門の研究

超ウラン化合物の電子状態を解明
〜電気伝導と磁性の二重の性質を持つ5f電子の性質〜

青木大(A)、山上浩志(B)、本間佳哉(A)、塩川佳伸(A,C)、酒井宏典(C)、 池田修悟(C)、
山本悦嗣(C)、中村彰夫(C)、芳賀芳範(C)、摂待力生(D)、大貫惇睦(D,C)

(A)東北大学金属材料研究所
(B)京都産業大学理学部
(C)日本原子力研究所先端基礎研究センター
(D)大阪大学大学院理学研究科

 金属の顔とも呼ばれるフェルミ面[1]を実験・理論の両側から明らかにすることで、超ウラン化合物NpGe3とNpRhGa5の電子状態を解明した。同じ電子が電気伝導と磁性の二重の性質を持っていることを超ウラン化合物で初めて明らかにした。
  天然に存在しない超ウラン元素は、放射能が強く取り扱いが難しいためにこれまで限られた施設でしか実験が行なわれてこなかった。しかし、最近になってプルトニウム化合物の高温超伝導が発見される[2]など、超ウラン化合物の研究は応用面のみならず基礎物性という視点からも注目を集めている。
  物質の電気伝導や熱伝導などの基本的な物性は、フェルミ面によって決まっている。そのフェルミ面を精度よく決定できる強力な実験手段がドハース・ファンアルフェン効果[3]である。実験を行なうためには、極低温(1K以下)、強磁場(10T以上)、純良な単結晶の三つの条件が必要不可欠である。

  純良な単結晶を得るために、本研究グループはまずNpO2(図1)を水溶液電解することで純良なNp金属原料を得た。この方法は、少量で高純度Np金属を得るのに非常に有効な手段であり、東北大学で開発された独自の手法である[4]。この原料を使って、フラックス法によりNpGe3とNpRhGa5という二つの化合物の単結晶を成長させた(図1)。これらの化合物の純良単結晶育成は世界で初めてである。

NpGe3のドハース・ファンアルフェン効果の実験では、図2のような量子振動の観測に成功し、この振動数の磁場に対する角度依存性を調べることで、フェルミ面の形状を決定することができた。実験結果は、バンド計算と呼ばれる理論計算と非常に良い一致を示している。図2は NpGe3のフェルミ面である。形は球状で中心部に中空の穴が空いている。このことから、Npの5f電子は、雲のようにゆっくりとたなびいて遍歴しており、伝導に寄与していることが分かった。磁性には関与していないが、5f電子どうしはクーロン反発力によって強く相関して、「重い電子状態」を形成している。このように、フェルミ面研究において実験結果が理論計算でうまく説明できるケースは一般に稀であり、超ウラン化合物ではもちろん初めてである。

次にNpRhGa5のドハース・ファンアルフェン効果の実験を行なった。NpRhGa5は低温で磁気モーメントが自発的に向きがそろう反強磁性秩序を示す。実験は、この磁気秩序状態で行なわれた。ここでも実験結果は理論計算ときわめて良い一致を示した。図3に示すようにフェルミ面は4種類の円柱状から構成されている。つまり、2次元的な電気伝導を意味している。NpRhGa5は、図3に示すようにc軸方向に細長い結晶構造をしている。この中でNpGa3の層が主に伝導を担い、RhGa2はほとんど絶縁層になっている。Npの5f電子は NpGa3の層をゆっくりと動いて遍歴している。さらに、NpRhGa5は磁気秩序状態にあるので、遍歴している5f電子が同時に磁気モーメントも担っている。これは言い換えると、同じ5f電子が伝導と磁性の二重の性質を持っていることを意味する。5f電子が二重の性質を持っていることを、実験と理論の両面から明らかにした。
このように超ウラン化合物の電子状態が明らかになることで、磁性や超伝導などf電子が関係する基礎物性の理解が進むことが期待される。さらに、これまで廃棄物とされてきた超ウラン元素の有効活用など、応用面でも期待が持てる。
これらの成果は、英文誌「Journal of Physical Society Japan」[5]と「Journal of Physics: Condensed Matter」[6]に報告された。後者は、とくに注目に値する論文に与えられる「IOP Select」にも選ばれた。この成果は5月18日の河北新報の一面でも報道された。
本研究は、 東北大学 金属材料研究所 附属量子エネルギー材料科学国際研究センター、京都産業大学 理学部、大阪大学大学院 理学研究科、日本原子力研究所 先端基礎研究センターの共同研究である。

解説

[1] フェルミ面
電気を伝える伝導電子はいろいろな方向に様々な速さで動くことができる。伝導電子の質量と運動の速さの積を運動量とよぶ。運動量空間で伝導電子をエネルギーの低いものから順に詰めていったときの最大のエネルギー値をとる電子状態を、フェルミ面とよぶ。3次元的に自由に動きまわれるときは球状のフェルミ面となる。一方、高温超伝導体などの銅酸化物は、電子は2次元的に動き回るので円柱状フェルミ面を持つ。フェルミ面を調べれば、物質の電気伝導、熱伝導、磁性などの物性が理解できる。

[2] J. L. Sarrao, L. A. Morales, J. D. Thompson, B. L. Scott, G. R. Stewart, F. Wastin, J. Rebizant, P. Boulet, E. Colineau and G. H. Lander: Nature 420 (2002) 297.

[3]ドハース・ファンアルフェン効果
伝導電子は固体中では様々な相互作用を受けて一般的には静止質量より重くなることも知られている。フェルミ面の形状やその質量を実験的に知る強力な手段の一つがドハース・ファンアルフェン効果である。実験は極低温・強磁場の条件下で行なう。磁場を加えると伝導電子は実空間でサイクロトロン運動をするが、運動量空間では球状のフェルミ面は円筒状に変貌する。磁場を増大させると円筒の数が減少し、それが振動現象となって検出され、これをドハース・ファンアルフェン振動とよぶ。振動の周期の逆数はフェルミ面の極大または極小の断面積に対応する。磁場方向を変えることによりフェルミ面の形状が決定される。例えば球状フェルミ面の極大値の断面積は磁場方向に依らず一定である。また、ドハース・ファンアルフェン振動の振幅の温度依存性から伝導電子の質量が決定される。

[4] Y. Shiokawa, K. Hasegawa, K. Konashi, M. Takahashi and K. Suzuki: J. Alloys Compds. 255 (1996) 98.

[5] D. Aoki, H. Yamagami, Y. Homma, Y. Shiokawa, E. Yamamoto, A. Nakamura, Y. Haga, R. Settai and Y. Onuki: printing in J. Phys. Soc. Jpn. No.8 (2005).

[6] D. Aoki, H. Yamagami, Y. Homma, Y. Shiokawa, E. Yamamoto, A. Nakamura, Y. Haga, R. Settai and Y. Onuki: J. Phys.: Condens. Matter 17 (2005) L169.


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