原子力人材育成教育の予習教材 
 
原子力人材育成教育の予習教材 

放射線による健康への影響

原案:下 道國(藤田保健衛生大学)

1.放射線による遺伝子の損傷
  • 放射線により直接および間接的に損傷
      ・間接作用の発生割合が大きい
  • 遺伝子を損傷させる物質
      ・食品添加物
      ・タバコ
      ・ストレスなど
  • 遺伝子の損傷
      ・全身の細胞60兆個
      ・毎日7万~100万の損傷
      ・毎日損傷を修復し、
      ・異常細胞を排除している
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  • 放射線により体が傷つく原因の一つに遺伝子の損傷があります。この場合は、図にあるように、遺伝子を構成するDNAが放射線によって直接損傷を受ける場合(直接作用)と、細胞内の水の解離によって発生したOHラジカルによって損傷を受ける場合(間接作用)がありますが、発生確率は間接作用の方が高いとされています。間接作用は放射線以外に、食品添加物やタバコ、ストレスなど様々な原因によって起こります。

2.発がんのメカニズム
  • 生体内には絶えず遺伝子損傷を修復したり、異常細胞を排除する多段階の発がん防御機能が備わっており、放射線に対して一定の抵抗力を持つ
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  • 発がんは、DNAの損傷によって起こります。損傷がDNAの2重螺旋の片方だけの場合はほとんど修復されますが、両方が損傷を受けた場合に不完全修復が生じ、役に立たなくなった細胞は排除されます。生存した一部が細胞分裂を繰り返す過程でがんの芽となる細胞に変化し、その一部が防御機構を逃れてがん化すると考えられています。

3.放射線の発癌影響 -LNT モデル-

LNTモデルでは、100 mSv の被曝で、死者千人中 5人が放射線で発癌と推定される。
1mSvでは、死者10万人中5人。  死者千人中、癌による死者は350人以上 (2016年)

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  • 100mSv以上の被ばくでは、被ばく線量の増加と共に発がんが増加します。一方、 100mSv以下では、それは明瞭ではありませんが、直線外挿モデル(linear Non-Threshold model; LNT モデル)が、放射線防護では安全側の立場から用いられます。図の丸で示すところは、全員が100mSvを浴びた死者1000人中、放射線による発がんでの死者は5人と見積もられることを意味しています。

4.低線量の健康影響への学会等の見識
  • 100 mSv以下でがんリスクを増加させた明確な証拠は無い
  • Warrento国際会議:過去50年間の疫学調査結果では、統計的に優位にがんが増える最低線量は100 mSv 以上、しかし、閾値の存在を意味しないと合意
  • 線量・応答関係 64.2(独)~75.0(米)%がSLTを信じる生物学者のLNT支持者:独1/3、米1/4
  • 仏アカデミー:実用的な閾値を支持し、LNT仮説に反対
  • ICRP2007勧告:LNTモデルは科学的に合理性がある、ゲノム不安定性、バイスタンダー効果、適応応答
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  • 100~200 mSv以上では、線量の増加と共に発がんが増加することは多くの学者によって認められています。100 mSv以下では他の因子との競合もあって、明瞭には認められていません。生物学者の中には閾値があるのではないかと考える学者も少なからずいますが、彼らも閾値はないとする公式見解には合意しています。フランス科学・医学アカデミーは、実際上、閾値があるとする立場です。

5.発癌の様々な原因

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  • がんは様々な要因によって発生します。図に示したハーバード大学が発表した結果によれば、多くの原因の中で、たばこと食事・肥満が大きな原因(両者で60%)となっています。自然放射線・紫外線は、環境汚染と並んでアルコールの3%より少ない2%に過ぎません。これらの要因の大小を正しく認識して生活することが肝要です。

6.放射線と生活習慣の発癌の相対リスク
野菜不足(ほとんど摂らない)
1.06
100~200 mSvの被ばく(原爆被爆者のコホート比較)
1.08
エアロゾル(都市の大気中に浮遊する微粒子)
1.05~1.15
塩分の取りすぎ (20 mg)
1.11~1.15
200~500 mSv の被ばく
1.16
運動不足 (ほとんど運動しない)
1.15~1.19
肥満
1.22
夫が喫煙(1日1箱)で受動喫煙する妻・子供
1.3
1000~2000 mSvの被ばく、毎日2合以上の飲酒
1.4
2000 mSv 以上の被ばく、喫煙、毎日3合以上の飲酒
1.6

津金昌一郎(国立がんセンター予防研究部長)(2011.4.25日経)による表を改変

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  • わが国でも国立がんセンターから、様々な生活習慣によるリスクが、公表されています。野菜をほとんど摂らない人のリスクは6%増えることがわかります。100~200mSvの放射線被ばくでは、それよりやや高くなっています。200~300mSvでは、塩分の摂り過ぎや運動不足と同じ程度です。2000mSv以上は、喫煙と同じリスクです。

7.確定的影響と確率的影響

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  • 放射線の人体への影響を見るときに、確定的影響と確率的影響に分けて考えることが有用です。確定的影響は、多数の細胞の損傷・排除による組織の機能障害で、それには閾値が存在します。確率的影響は、1個の細胞の損傷でも発生する発がんと遺伝的影響で、放射線防護上では閾値はない(LNTモデルの適用)として扱いますが、現実の健康影響で閾値がないと明確に判断されているわけではありません。

8.高感受性細胞と組織

ベルゴニー・トリボンドーの法則 (感受性の高い細胞)

  1. 分裂頻度の高い細胞
  2. 長期にわたって分裂する細胞
  3. 形態的・機能的に未分化の細胞

感受性の分類

グループ 組織・器官・臓器
A(非常に高い) リンパ組織、造血組織、生殖腺、粘膜
B(比較的高い) 唾液腺、毛のう、汗腺・皮脂腺
C(中程度) 奨膜、肺、腎臓、副腎、肝臓、膵臓、甲状腺
D(低い) 筋肉、結合組織、脂肪組織、軟骨、骨神経組織、神経線維
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  • 放射線感受性の高い細胞はどのような細胞なのかは、ベルゴニーとトリボンドーによって明らかにされました。感受性が同じであっても、成人よりも幼児の方がより細胞分裂が活発なだけに、影響が大きく現れます。また、表で分かるように、組織・臓器によって差があり、さらに感受性は個人によっても違いがあります。

9.確定的影響のしきい値の推定

単位:mGy(ミリグレイ)

組織と影響 1回短時間
被曝単位
多分割
遷延被曝
多年にわたる
年間線量率
睾丸 一時不妊
    永久不妊
150
3500~6000

400
2000
卵巣 不妊 2500~6000 6000 >200
水晶体 混濁
     視力障害
500~2000
5000
5000
>8000
>100
>150
骨髄 造血機能低下 500 >400
ICRP2007:ICRP(国際放射線防護委員会)が2007年に出した勧告
1mGy(ミリグレイ)=1mSv(ミリシーベルト)
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  • 確定的影響には閾値があり、多くは数100mSv以上です。これは、過去の障害例、放射線を利用した治療上での観察、事故・原爆の症例など多くの事例によっています。なお、最新の調査により、白内障は年当り20mSv(等価線量)に下げられています。閾値は、組織・臓器によって異なるほか、高線量率の1回被曝と低線量率による多分割被曝、あるいは多年度におよぶ遷延被ばく等によって異なります。